〇はじめに
「将来の夢は何ですか?」
学校教育の中で、よく聞かれる質問です。都立高校の入試で用いられる自己PRカードにも、「将来の夢や目標、なりたい職業など、高等学校卒業後の進路について自分が考えていることを具体的に記入しましょう。」という欄があります。小学校の時はあまり気にならなかった質問でも、中学3年生にもなると「将来の夢」がない自分に対し、不安や焦りを感じる子どもも少なくありません。
義務教育の最後の3年間を過ごす中学校。卒業後も子ども達が将来について前向きに考え、自分で人生を切り開いていくために、教員はキャリア教育で何を意識すべきでしょうか。
〇文科省が示すキャリア教育
中学校学習指導要領解説(2017)では、「キャリア教育の充実」において、学校教育全体の中で基礎的・汎用的能力を育むことの重要性を示しました。1)
一方、森本・平野(2022)は、あらゆる教育活動がキャリア教育になりうるのであれば、教員の「キャリア観(主観的な価値観や理想像)」がキャリア教育にプラスにもマイナスにも影響を与える可能性を示しています。3)
〇夢追い型キャリア教育
「キャリア観」の中には様々なものが含まれると考えられますが、その一つに「目指すべき夢(職業)を見つけた方が良い」という考えも、学校教育の中に潜んではいないでしょうか。
法政大学キャリアデザイン学部教授 児美川孝一郎氏は、夢を持たせ夢を追わせる「夢追い型キャリア教育」について、「十分な情報、知識のないところで夢を語らせることは、それだけ将来の視野を狭くする危険をはらみます。」と警鐘を鳴らしています。そのうえで、「看護師」のようなピンポイントの職業ではなく、「人と関わり、人を助けることに充実感を感じる」のような自分の根っことなる価値観=キャリアアンカーを見つけることで、子ども達の将来の選択肢が大きく広がる、と述べています。4)
〇最後に
教科の授業や学校行事・部活動等、学校にはキャリアアンカーを見つける機会が沢山あります。しかし、実際にアンカーを見つけるためには、子ども達自身が様々な経験をする中で「自分はこの経験を通して何を感じたのか」「なぜそう感じるのか」を振り返ること、そしてその前提として、アンカーを見つけることの重要性を子ども自身が自覚することが必要です。
「どんな力を身に付けてほしいのか」「何を考えてほしいのか」教員が目的意識をもってキャリア教育に臨むこと、そして「なぜ、必要なのか」を子ども達にしっかりと伝えること、そこに私達教員としての重要な役割があるのではないでしょうか。