Vol.064食をテーマにした保健の授業づくり②
既存の知識を見直し、食生活を考える

2018.09

 現在若者の間では、「摂食障害」や「孤食」といった食に関する問題があげられています。将来、このような問題に関わることがないように、生徒が持つ食に関する知識を見直し、食事の価値を知ってほしいと考えました。授業では最初に具体的な事例を示し、この食生活は正しいのかをグループで検討、発表させました。

 その際、根拠をあげて「正しい」「間違っている」が言えるようにと指示しました。しかし、根拠をあげることは、生徒たちの断片的な知識だけでは難しいと感じ、各グループにタブレットを与え、ネットで調べることも可能にしました。

事例
  • 成人女性
  • 1日三食とは決めずにおなかがすいたら食べる。
  • 1回の食事で食べ過ぎないように、10分以内で済ませる。
  • 「おなかがすいたら食べる」に対しては、次のような意見が見られました。

  • 人間は約6時間感覚でおなかがすいたという信号が発せられるので、1日多くてもせいぜい4〜5食ぐらいになるはず。だから肥満にはつながらないからOK。
  • がまんしないのでストレス解消にもつながる。
  • 回数を減らすと1回に食べる量が多くなり、血糖値も急激にあがってしまう。これは生活習慣病を引き起こす危険がある。
  • 「10分以内で済ませる」に対しては、次のような意見が見られました。

  • 満腹中枢が働くのは食事を始めてから20分後。食べ過ぎる危険がある。
  • 人間は唯一食事を共有する動物。食事はコミュニケーションの一つでもあると考えると、時間をかけて食べるのが良い。
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     このように、科学的な根拠を探ることにより、自分たちが持っていた今までの知識の危うさにも気づいたようです。とくに、「食事はコミュニケーションの一つである」のように、改めて食事の価値について見直した生徒も多く、ノートには次のような記述も見られました。

  • 時間がもったいないという理由で、夏休みは昼食抜きで過ごしていた。栄養バランスは考えていたけど、食事の目的は生きるだけでなくコミュニケーションのことも意識していきたいと思った。
  • 食事は身体の面でも心の面でも自分を支えていくからこそ、その価値を意識しながら自分の生活とバランスがとれる形態を見つけて、健康を保っていきたい。
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     具体的な事例をもとに調べ学習をすすめることによって、既存の認識を改めるとともに、自分の食生活への振り返りにもつながる学習となりました。また、食事には栄養を摂取するだけでなく、コミュニケーションを育む役割があることも認識することによって、豊かな食生活を創るという姿勢にもつながっていきます。さらに、保健のねらいでもある健康な生活を求めて実践してくれると実感しています。

    東京学芸大学附属小金井中学校教諭 上野佳代
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