Vol.169子どもと共に「わからない」に向き合う

2023.12

「先生、ダンゴムシって転ぶの?」

 ある日、私が担任をしている4年生の男の子が給食の時間に言いました。正しい答えがわからず、返答することができなかった私の周りでクラスの子どもたちが騒ぎ始めました。
 「給食中に何言っているの?」
 という子から始まり、
 「いつも転んでいるよ!」
 「転ばないに決まっているじゃん!」などいつの間にかクラス全体を巻き込んで様々な意見が飛び交いました。しかし、どれもはっきりとした答えにはなりません。そこでデューイが探究のスパイラルについて「探究は言葉にならないモヤモヤからスタートしてもよい」1)という『不確定な状況』を原点としていることから、その男の子の純粋な興味からの問いをもとに学びを始めました。

 給食後の授業で子どもたちと話し合い、「ダンゴムシは転ぶのか?」の問いの答えを見つけるために、校庭でダンゴムシを探し、観察することになりました。校庭に出た子どもたちは、それぞれに話をしながら活動をし始め、ほとんど子どもたちが遊んでいるように見えましたが、徐々に変化が見られました。
「先生、ダンゴムシに白い点々がありました!」
「どうやらダンゴムシの足は14本あるらしいよ。」
観察の結果から、次々に新しい発見が見られました。足の本数やメスには白い斑点があることを知っている子どももいて、子どもたちは話し合いを通して様々な知識を得ているように見えました。

 さらに進むと
「ダンゴムシが丸まるための節はいくつあるの?」
「そもそもダンゴムシって何を食べているの?」
「ダンゴムシって転ぶの?」という問いが広がり、新たな問いが生まれていきました。その授業の中では、ダンゴムシは転ぶという大まかな答えに達する子どもたちが多かったようでした。

 しかし、次の日にクラスのある女の子が私に興奮した様子で話しかけてきました。
「先生、ダンゴムシのような足の多い生き物は安定感があるから転ばないよ!」
家庭内でも話題となって、理科を専門としている父親と共に話し合ったり調べたりしたそうです。補足ですが、後日私自身も調べたところ、ダンゴムシは通常は自らバランスを崩して倒れる(転ぶ)ことはないそうです。

 「わからない、わかりたいという気持ちこそが深い学びを引き起こしていくのである」2)とあるように、子どもの主体性を引き出すのは知りたいという純粋な探究心です。そして、探究心から新たな知識を得て、新たな問いを生みます。教師もわからないことを恐れず、子どもと共にわからないに向き合うことから探究がスタートします。子どもと同じ目線に立ち、協働しながら解決していくことが探究の醍醐味であるのではないでしょうか。

向山 昇伍
【参考文献】
1)藤原さと(2023).『協働する探究のデザイン 社会をよくする学びをつくる』. 株式会社平凡社 p.93
2)同上 p.94
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