幼児教育は「一人一人に応じた教育」であり、特別支援教育もまた「一人一人に応じた教育」です。一人一人の子どもが今、何を好んでいて、何に困っているのかを把握するところから始まります。20年間幼稚園教諭として勤めてきた中で「特別支援教育」は決して“特別”なことではなく、かかわり方に工夫が必要なんだなと思うようになりました。その子に分かる伝え方を工夫することで、幼稚園が子どもにとって生活しやすく安定した居場所となり、教師もまた、落ち着いて子どもと関われるのです。事例を通してご紹介します。
5歳児学年のAちゃん。生活年齢は2歳くらいといわれており、オムツをして生活していました。保護者も先生たちも、オムツなしで生活できるようになることを目指していました。まずはトイレに行くということを習慣にしたいけど、どうやって…?と悩む日々。Aちゃんの好きな写真をトイレに貼って、トイレに行くとその写真が見られるというお楽しみを作ったり、時間を決めて促したり、いろいろな方法をやってみました。ある時、研修会で「成功のストーリーを本にして伝える」ことを学び、早速「〇時です。Aちゃんはトイレに行きます」と始まり「すっきりしたよ。先生がほめてくれます。お母さんもほめてくれます」と終わる「Aちゃんトイレに行く」という本を作りました。これを毎日同じ時間に繰り返し見せると、Aちゃんは自分からその本を手に取り、トイレに行くようになりました。そしてオムツなしで生活ができるようになったのです。
また、その後出会った5歳児学年のBちゃん。Aちゃんの時のことを思い出し、健康診断を嫌がるBちゃんに本を作って、促してみました。すると担任とその本を通したやり取りを喜ぶようになりました。行事の時も、このような本を作り、見通しをもって参加できるようにしてきました。朝から夜まで幼稚園で過ごす「夏季保育」では「『カレーを作る』の巻」「『花火を見る』の巻」など1日で7冊の本を作りました。長時間の夏季保育でしたが、先生たちのサポートを受けながら、すべての活動に参加することができました。「夏季保育」の本を、翌日以降保育室に置いておいたところ、自分から手に取り、声に出して読んだり、眺めて笑ったりしていました。きっと楽しかった一日を振り返っていたのでしょう。そこには一緒に本を眺める他児の姿もありました。
いろいろな方法を考えて試して、うまくいかないこともたくさんありましたが、このような子どもたちの姿に出会えると、「やってみてよかった」「また考えてみよう」と思えるのです。この事例の場合は、本を通したやり取りが本人の園生活を支えることにつながりました。今後も、一人一人の子どものもっている力を信じ、引き出したり、伸ばしたりしていける教師でありたいと思っています。