Vol.110絵本を用いた高校生への生活指導②
自分がバリアであることに気づかせる

2020.08

 本校は住宅地の中にあります。生徒数は1000人弱ですが、その多くが学校の最寄り駅から住宅地の中を歩いて登校してきます。毎年、近隣住民の方から登下校の歩行マナーやトラブルに関する連絡をいただきます。「近隣住民の方から苦情が出ています。気をつけて登下校しなさい。」という話では、生徒たちの反省は十分に促せません。そこで、昨年度3学期の始業式でこのように話してみました。

 まずは私の好きな絵本から「びくびくビリー」(アンソニーブラウン作絵 灰島かり訳 評論社)を紹介しました。心配ごとが多くて眠れないビリーにおばあちゃんが「心配引き受け人形」をくれてぐっすり眠れるはずだったのに…、というお話です。この「心配引き受け人形」はグアテマラ共和国の「ウォーリードール」がモデルとなっています。心配ごとはあたため過ぎず、早く解決するほうが充実した高校生活になりますよ、と呼びかけました。

 ところで、「私の目下の心配ごとは、みなさんがバリア(障壁)になっていることです。」と続けました。政府広報オンラインの説明によると「多様な人がいるにもかかわらず、多数を占める人に合わせて社会がつくられてきました。多数を占める人たちにとっては何でもないことが、少数の人たちにとって、不便さや困難さを生むバリアとして存在します。」とあります。2学期末に視覚特別支援学校高等部との交歓会が本校を会場にして行われました。歴史ある(というと聞こえは良いのですが、)本校の校舎はスロープやエレベーターもなく、いたるところにちょっとした段差があるバリアフリーからはほど遠い施設です。交歓会を企画した生徒たちは、活動場所や移動の動線を考えながら、できる限りバリアを回避しようと丁寧に準備をしていました。その取り組みを紹介した上で、日頃の自分たちの生活を考えさせました。登下校中にすれ違う近隣住民にとって、自分達がバリアになっていることに気づいているだろうか。自分が多数側にいることで他者への配慮を忘れていないだろうか。「心のバリアフリー」とは、困っている人に気づくこと、バリアを感じている人の身になって考え行動を起こすことから始まることを伝えました。最後は「自分の生活環境を見直してみよう。」と投げかけました。

 隣人の心配ごとに気づき、解決に向けて自分のできることを考えて行動することは、登下校や学校生活にも共通する生徒の望ましい姿勢です。ある事象への直接的な指導だけでなく、絵本から導入して考えさせるという方法も、高校生にとっては新鮮なのではないでしょうか。

東京学芸大学附属高等学校
居城 勝彦
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