Vol.75異質なものとの出会いで人は変わる

2026.09

現在の私―防災教育活動に至る道のり
 近年、自然災害は予測が難しく、甚大な被害が各地で発生しています。私たち「防災教育ラボ」は、自治体や学校、公園、公民館などと協働し、子どもたちが楽しみながら学べる体験型の防災教育活動を行っています。子どもの気づきが家庭へ、地域へと広がり、防災意識が育つことを目指しています。メンバーは約15名。学生、教員、企業人、高齢者など多様な背景を持つ人々が集まり、それぞれの経験を持ち寄って活動を支えています。私自身が、なぜこの道に辿りついたのか ― その原点を探すため、これまでの自身の教育実践を振り返りました。  私は、公立高校の英語教員として定年まで勤めた中で、「異文化理解」を担当したことが転機となり、大学院での学びを決心しました。異なる文化や価値観に触れることで、人は互いを尊重し合い、支え合うという可能性に、心が動いたのです。折しもコロナ禍、ちょうど熊本県が豪雨災害に見舞われた時。「命を守る教育こそ最も大事」との思いを強めて研究を進めました。ゼミの教授の後押しもあり「だれひとり取り残さない防災」を目指す「防災教育ラボ」を立ち上げ、今の活動に繋がっています。現在は、同大学の非常勤講師として『生涯学習とキャリア形成』の授業を担当し、私自身も学びを続けています。

「異文化理解」の授業で見た生徒の変容
 外国語を学ぶことは、言葉を通して、異なる文化や価値観に触れることでもあります。「異文化理解」の授業では、外国にルーツを持つ方々の困りごとを理解し、改善策を考え、実際に関係機関と協働しながら検証しました。生徒たちは、市役所や病院、学校などを訪れ、現場の声を傾聴しながら学びを深め、課題に向き合う達成感を得て、将来への目標を明確にさせていきました。その頼もしさに、私は心を動かされました。  交換留学でも、生徒の変容を何度も目の当たりにしました。英語圏だけでなく、中国内モンゴル自治区、マレーシア、ドイツなど多様な地域での交流を経験し、価値観の違いによる戸惑いや言語の壁、宗教観の差異など、様々な困難を体験し帰国した生徒は驚くほど成長します。出発時はどこか頼りなげな表情が、帰国時には凛とした姿になっていて、若さが持つ力強さを感じられました。

生徒を変えた部活動での体験
 インターアクト部の顧問をしている時、地域のロータリークラブの支援を受け、国際ロータリーの留学生を迎える歓迎会で生徒がホスト役を務めたことがあります。不登校経験のある生徒や、人前に立つことが苦手な生徒もいましたが、周囲の温かい励ましを得、数百人の前で話し、踊り、歌う体験は、見違えるほど生徒を大きく成長させました。  卒業式の日、ある男子生徒が手渡してくれた手紙に、こんな言葉が綴られていました。「中学時代の僕は、放課後の教室でひとり教科書を見ていた。でも国際大会を経験した今は違う。誰でも変われる。そのことを多くの高校生に知ってほしい。」彼の目の輝きと力強い言葉は、今も心の奥に深く残っています。体験こそが人を変えると確信した出来事でした。

異質なもの同士の協働が社会を変えるー大学院での学び
 大学院では、市民が主体となり行政と協働して町づくりを進める様子や、子ども食堂・学習支援を行うボランティア活動などを体験する幸運を得ました。行政、学校、PTA、企業、NPO、市民グループなどが同じ目的のもと、それぞれの強みを生かして協働する力は、どれほど大きな可能性を持つものか実感しました。私の現在の防災教育活動の大切な手本となっています。異質なもの同士の協働が社会の変革をももたらす可能性を秘めているのです。

これからの私
 防災活動は、人間の固定観念を超えた自然の力と向き合う営みです。その意味で「異文化理解」と根っこは同じだと感じています。自分と異なるものに心を開き、違いを受け止め、新たな価値観を重ね合わせることで、突破口が生まれるのではないでしょうか。  これまで私を支えてくださった方々への感謝を胸に、これからも「異質なもの」を大切にしながら「協働」を重ね、共に「なるほど」「なっとく」と感じ合える仲間の輪を広げていくことを、人生の目標として歩んでいきたいと思います。

東京学芸大学Explayground防災教育ラボ 
代表 後藤 範子
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HUMAN一覧

human Vol.75
異質なものとの出会いで人は変わる
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human Vol.74
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human Vol.73
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2026.07
human Vol.72
「こどもの居場所の創り方」
―これからの世界を生きるこどもたちへのバトン―
2026.05
human Vol.71
積み重ねが人をつくる
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human Vol.70
学び続ける教師として
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学生から教師に「なっていく」関わり方を求めて
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肢体不自由学級特別支援学級って
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human Vol.047
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human Vol.034
第87回 授業と子どもを考える会
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中部学院大学短期大学部 幼児教育学科 助教 小室明久
2020.01
human Vol.032
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小田原短期大学 助教 中村昭彦
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human Vol.031
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文京区立林町小学校 主任教諭 清水 良
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human Vol.030
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埼玉県所沢市立三ケ島中学校 佐藤 彩弥
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human Vol.029
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第2回「教えて! 先輩!」
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human Vol.022
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human Vol.021
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human Vol.020
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和歌山県田辺市立東陽中学校教諭 大家育海
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human Vol.019
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茨城県つくば市立春日学園義務教育学校校長 石川栄樹
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human Vol.018
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東京都品川区立清水台小学校教諭 中田顕一
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human Vol.017
第1回「教えて! 先輩!」
「いろいろな目」で物事を見ることの大切さ
2018.11
human Vol.016
境目の1メートル
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human Vol.015
私にとっての教育
長野県小諸市立美南ガ丘小学校校長 鈴木雅幸
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human Vol.014
ツイています
東京都調布市立杉森小学校校長 森田康之
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human Vol.013
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human Vol.012
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2018.04
human Vol.011
生徒理解につとめた日々
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2018.03
human Vol.010
道具がつくれる人間を育てよう
東京都府中市立府中第四中学校校長(全日本中学校技術・家庭科研究会 顧問) 三浦 登
2018.02
human Vol.009
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東京都西東京市立保谷中学校養護教諭 野田優子
2018.01
human Vol.008
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human Vol.007
「生きる力」を育む「体育授業」
岩手県西和賀町立湯田小学校校長(体育授業研究会理事長) 盛島 寛
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human Vol.006
体育講師との出会い
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2017.09
human Vol.005
未知なる世界への誘い
大阪教育大学附属高等学校平野校舎教諭 松田雅彦
2017.08
human Vol.004
教師として、屋台骨をつくることができた時期
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2017.07
human Vol.003
教えているつもりが教えられ
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2017.06
human Vol.002
まわり道・・・だったからこそラッキーの連続!講師生活
香川県高松市立前田小学校教諭 畦田絵里子
2017.05
human Vol.001
探求と創造への注力
東京学芸大学教授、東京学芸大学附属世田谷小学校校長 松浦 執
2017.04

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