近年、人工知能やビットコイン等に代表されるように、知識・情報・技術の変化は加速度的であり、情報化やグローバル化といった社会的変化が人間の予測を超えて進展するようになっています。このことは、学校においても、SNSに係るトラブルやいじめ・不登校など、様々な問題を引き起こし、加えて家庭環境の格差や教育力の低下等が複雑に絡み合って、予測できない深刻な事態に陥ることが増えていると感じます。
私は、このような予測困難な時代において、レジリエンス(resilience)「復元力、回復力、強靭さ、折れない心等」を育てる教育の可能性に注目したいと思います。レジリエンスを育てるにはどうしたらよいのでしょうか。
これまで学校では、自尊感情を高めることを重視し、できるだけ生徒の良いところを見つけて誉めることを実行してきました。これは今後も続けていくべきでしょうが、過大に誉めるのではなく子どもが真剣に頑張ったことを正当に評価してあげることが大切でしょう。また、子どもが誤ったことを行った場面では、「ダメなことはダメ」と子どもと向き合ってその理由を説明し、しっかり叱ることが必要だと思います。重要なのは、叱って終わりではなく、そのあとに「立ち直らせる」ことです。さらに、いじめや差別に対しては、学校全体で「絶対に許さない」といった姿勢や雰囲気を示すと同時に、「はねかえす力」「言い返す力(表現力)」をつけさせたいですね。楽しい学校や社会は望ましいでしょうが、現実は必ずしもそうとは限りません。いじめや差別のない学校や社会を目指すことは大切な目標であり、使命でもありますが、同時に、いじめや差別に負けない心を育てることも重要だとますます感じるようになっています。
そのためには、コミュニケーション力を培いながら「仲間のよさや人に頼ってもよい」ことを発見できる体験型の共同学習や、地域と連携した恊働作業等を経験させること、教科指導、特別教育活動、総合的な学習の時間、部活動等、学校教育活動のあらゆる機会をとおして「乗り越える力」「なんとかなるさと思える力」「失敗しても何度もチャレンジできる力」などをスモールステップで身につけさせることが、これからの予測困難な時代において、学校教育では重要なポイントになると考えています。
最後に、このレジリエンスは私たち大人にもまったく同様に必要なことでしょう。これからの困難な学校現場を、先生方こそが子どもたちと共に明るく逞しく生き抜いていただきたいとエールを送りたいです。(今年で退職する先輩教師として)