「自分は絵を描くのが好きだから良いけれど、そうでない人たちにとって美術教育はどのような役に立つのだろう。」
教育学部美術専修に在籍していた大学時代、私は美術教育の意義というものについてつかみかねていました。
そうこうしている間に、在学中、私は漫画の新人賞を取り、漫画家の道に進むことを決めました。
それから十余年、漫画家の経験を経ることにより美術教育の意義が自分なりに見えてきたことで、再び教育の世界に戻ろうと決意しました。
漫画家の能力を考える時には2つの側面があります。
漫画家時代、私は「読みやすく」「分かりやすい」ということを重視して漫画を制作していました。人に伝わらなくては意味がないと考えていたからです。
しかし私には伝える技術があっても肝心の「伝えるもの」あるいは「個性」が欠けていました。
多くの人に受け入れてもらえる漫画はこの両側面を兼ね備えたものです。
伝える技術しかない漫画は魅力に欠け、個性しかない漫画は人に伝わりません。この両者がそろうことによって掛け算が起こり、爆発的に漫画の価値が跳ね上がるのです。
そしてこれは漫画家の世界にだけ言えるものではないでしょう。
技術が進歩し、変化が激しいこれからの社会に求められるのはAIにできない創造的な価値を生み出す人材だと言われています。そこに美術教育の担う役割は小さくないと思います。
絵画や工作、鑑賞の活動等、美術教育において育まれる資質・能力は
①自分の内面や周囲の環境と対話して感性を磨き育まれる「個性」。
②視覚的な手段を通して自分の意図を人に「伝える能力」。
漫画家という道を経て私はようやく美術教育の重要性を自分なりに実感することができるようになってきました。
「個性」と「伝える技術」を兼ね備えた人材の育成、それが漫画家から美術や図工の教員となった今の自分の目標です。