Vol.047企業の総合職と公立高校の教員を経験して感じること

 大学4年次を振り返ると、就職活動を行いつつ教育実習(3週間)も履修していたため、慌ただしい日々を送っていたのを思い出します。就職氷河期の終盤であったとはいえ、就職活動は30社以上にエントリーシートを提出し、内定をもらえたのは1社のみでした。厳しい就職活動でしたが、大手繊維メーカーの医療部門に総合職として内定をもらえた経験は、今現在も自分の糧となっています。入社すると人工透析事業部の営業職として配属され、病院のDr.、臨床工学技士、事務長といった方々が取引相手となりました。会社から求められるのは実に単純明快で、「予算達成」でした。売上、利益、市場占有率(シェア)、本数(人工腎臓)、台数(人工透析装置)の予算をそれぞれ達成することで、自分の仕事が評価されるのです。交渉術や販売方法に正解はなく、自分自身の創意工夫によって予算を達成していくことにやりがいを感じていました。入社4年目で東京営業部(関東地区)のMVPを受賞し、6年間務めたところで転職に踏み切りました。

 転職先は東京都の公立高校です。「きっかけは?」と聞かれれば、やはり大学4年次の教育実習の経験が、いつまでも頭の中から消えなかったからです。企業人として満足しつつも、深層心理では教師になりたいと思っていたのですね。教職についてから10年が経ちますが、企業の総合職との違いは、「育成するもの(対象)の違い」ということになるでしょう。企業の総合職は自社製品が売れる市場を育てること(いわばマーケティング)が仕事になりますが、教師が育てるものは「人(生徒)」なのです。では、どのような生徒を育てれば教師の仕事として正解なのでしょうか。難関大学に合格させること、センター試験で高得点を取らせること、部活動で上位大会に進出させること、いじめのないクラス運営をすること、転退学者を出さないこと等、教師に求められることは様々であり、数値化できるものもあれば、数値化できたとしてもそれが本当に評価されるべきものなのかは分からなかったりします。教師に求められるものは、実に単純明快ではなかったのです。

 では、教師は何を目指すべきでしょう。企業の総合職と公立高校の教員を経験してみて、共通して言えることが一つあります。それは、いま自分がいる「場所」で、自分の目の前にいる「人」に対してどれだけ力を注ぐことができるかどうか、それによって育成する対象の成長度合いが大きく異なるということです。これは企業にいても学校にいても変わりません。昨今の働き方改革で求められている仕事の効率・能率を上げることはもちろんですが、それ以上に熱量が必要であるということを忘れてはなりません。このように感じてしまうのは、製品性能よりも信頼関係が上回った企業での経験や、教育困難校の素人集団が大会で勝ち上がっていく姿、難関大学の一般入試に果敢に挑戦していく姿を教師として目の当たりにしてきた経験からでしょう。企業と学校、総合職と教職、それぞれに様々な違いはありますが、両方を経験してきた身としては、そこに本質の違いがあるとは感じていないのです。

東京都立小平西高等学校 公民科主任教諭
東京学芸大学大学院教育学研究科
臨床心理学プログラム(修士課程2年)
竹達 健顕
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HUMAN一覧

human Vol.047
企業の総合職と公立高校の教員を経験して感じること
東京都立小平西高等学校
公民科主任教諭 竹達 健顕
2021.03
human Vol.046
今日の授業は子ども達のためにできましたか。
小平市教育委員会教育部
指導課 指導主事 松田 弦
2021.2
human Vol.045
価値観が変わった3年間
世田谷区立尾山台小学校
主任教諭 大宮雅弘
2021.1
human Vol.044
教員の働き方改革とは何か
板橋区立板橋第三中学校
大西健太
2020.12
human Vol.043
学級通信とともに
東京学芸大学附属小金井小学校
大村幸子
2020.11
human Vol.042
脳みそリセット
東京学芸大学附属世田谷小学校
長坂祐哉
2020.10
human Vol.041
”よさ”を大切にする
葛飾区立上小松小学校
副校長 林正隆
2020.09
human Vol.040
思いはしなやかに
前東京学芸大学附属世田谷小学校副校長
東京学芸大学非常勤講師 藤田留三丸
2020.08
human Vol.039
漫画家から教員に
板橋区立成増小学校教諭 渡邊一平
2020.07
human Vol.038
やりたいことをやってみる
小金井市立南小学校教諭 高橋雅子
2020.06
human Vol.037
脱“皮”学校の僕
~Zoomによる授業研究会~
高崎市立並榎中学校教諭 小林大介
2020.05
human Vol.036
日記と子どもの理解
成城学園初等学校教諭 高橋丈夫
2020.04
human Vol.035
H先生とA君
杉並区立杉並和泉学園和泉中学校
非常勤教員 飯田良高
2020.03
human Vol.034
第87回 授業と子どもを考える会
桐蔭横浜大学教授 谷本直美
2020.02
human Vol.033
いつもヒントは目の前の子ども達に
中部学院大学短期大学部 幼児教育学科 助教 小室明久
2020.01
human Vol.032
「新しい音楽教育を考える会」による音楽づくりワークショップ
小田原短期大学 助教 中村昭彦
2019.12
human Vol.031
「せつないって、なぁ〜んだ?」
文京区立林町小学校 主任教諭 清水 良
2019.11
human Vol.030
「他力本願がつないだ縁、広がる世界」
埼玉県所沢市立三ケ島中学校 佐藤 彩弥
2019.10
human Vol.029
ケイさんからの電話
元東京都公立小学校教諭 大貫耕一
2019.09
human Vol.028
教師が伸びれば、子供も伸びる
調布市立第三小学校 小島大樹
2019.08
human Vol.027
よし!体育の勉強会を創ろう
流通経済大学 教授 福ヶ迫善彦
2019.07
human Vol.026
半世紀生きて、やっと英語を楽しむ気持ちになりました!
青森県三戸町立斗川小学校教頭 竹原まり子
2019.06
human Vol.025
「出会い」を求めて 〜異文化交流のすすめ〜
香川県高松市立東植田小学校教諭 窪田啓伸
2019.05
human Vol.024
児童一人ひとりが居心地の良い学級
千葉県松戸市立旭町小学校教諭 丹隆二
2019.04
human Vol.023
第2回「教えて! 先輩!」
若手だからできること、中堅だからできること
2019.04
human Vol.022
師匠と弟子
宮城県 登米市立米山中学校 主幹教諭(安全担当)及川政彦
2019.03
human Vol.021
理想を超えられるように
佐賀県唐津市立大志小学校教諭 清水皓太
2019.02
human Vol.020
生徒にとっての「良い授業」を
和歌山県田辺市立東陽中学校教諭 大家育海
2019.01
human Vol.019
教育は共育
茨城県つくば市立春日学園義務教育学校校長 石川栄樹
2018.12
human Vol.018
"心を解放し、自由に表現できる場"を作りたい
東京都品川区立清水台小学校教諭 中田顕一
2018.11
human Vol.017
第1回「教えて! 先輩!」
「いろいろな目」で物事を見ることの大切さ
2018.11
human Vol.016
境目の1メートル
埼玉県さいたま市立谷田小学校校長 井原政幸
22018.10.
human Vol.015
私にとっての教育
長野県小諸市立美南ガ丘小学校校長 鈴木雅幸
2018.08
human Vol.014
ツイています
東京都調布市立杉森小学校校長 森田康之
2018.06
human Vol.013
教師としての土台となる1年間
東京都北区立田端小学校教諭 梶川侑哉
2018.05
human Vol.012
魅力ある先生って?
岡山県岡山市立五城小学校校長 小川泰永
2018.04
human Vol.011
生徒理解につとめた日々
check out
2018.03
human Vol.010
道具がつくれる人間を育てよう
東京都府中市立府中第四中学校校長(全日本中学校技術・家庭科研究会 顧問) 三浦 登
2018.02
human Vol.009
すべての経験が財産となる
東京都西東京市立保谷中学校養護教諭 野田優子
2018.01
human Vol.008
「レジリエンス」を育てる教育の重要性
福岡県立三潴高等学校校長 橋本真理子
2017.12
human Vol.007
「生きる力」を育む「体育授業」
岩手県西和賀町立湯田小学校校長(体育授業研究会理事長) 盛島 寛
2017.10
human Vol.006
体育講師との出会い
東京都足立区立千寿本町小学校教諭 小林祐太
2017.09
human Vol.005
未知なる世界への誘い
大阪教育大学附属高等学校平野校舎教諭 松田雅彦
2017.08
human Vol.004
教師として、屋台骨をつくることができた時期
山口大学教育学附属光小学校教諭 才宮大明
2017.07
human Vol.003
教えているつもりが教えられ
東京都品川区立後地小学校校長 石出浩朗 
2017.06
human Vol.002
まわり道・・・だったからこそラッキーの連続!講師生活
香川県高松市立前田小学校教諭 畦田絵里子
2017.05
human Vol.001
探求と創造への注力
東京学芸大学教授、東京学芸大学附属世田谷小学校校長 松浦 執
2017.04