Vol.057社会の授業におけるアクティブ・ラーニング①
表現しながら思考を深めていく社会科の学習

2018.06

 3年生は社会科の導入期に当たります。自分の身の回りに当たり前のようにあることやものに、改めて目を向け、追究していく姿を育てていきたいものです。今回は「わたしたちのくらしと工場」の実践を紹介します。

 子どもたちの大半は、身の回りにある物のほとんどが工業製品であるという意識がありません。学区域にある製本工場の協力を得て、工場見学を軸にした学習過程を組みました。導入では、製本前のカレンダーや、子どもたちがよく知るカードゲームの裁断前のものを提示しました。普段目にするカレンダーやカードとの違いから、様々なことに気づきます。「印刷物はどのようにして作られ、どのように私たちのもとに届くのだろうか」。実物を見ることによって、子どもにとって切実性のある学習課題が生まれてきます。印刷業全体の製品の流れなども事前に資料から学習し、いよいよ工場見学です。それぞれの子どもに見学の目的があるので、熱心に見学し、質問も絶えませんでした。そして、それぞれが興味関心をもって見学してきたことを、表現しながら思考を深めていけるようにワークシートを工夫しました。

 ワークシートは一時間に一枚、テーマごとに用意しました。知識・理解として押さえておきたいことは必ず盛り込むようにしました。また、その子なりの学習の足あとがわかるように学習感想の欄を設け、自由記述欄を大きく取りました。子どもたちは、写真を張ったり、自分の見学時のメモを活用して吹き出しをつけたりするなど、調べたことを自分の言葉で再構成していくことによって、思考や理解を深めていきました。そして、学習の終盤では、働いている人がどのような工夫をしたり努力をしたりしているのかについて考え、話し合いました。ここでは、工場の方にも教室に来ていただき、話し合いを聞いていただいた後、実際の様子をお話しいただきました。その話を受けて、子どもたちは自分なりの、この工場の標語(モットー)を考えました。

 この学習過程は、製本工場の協力なくしては成立しませんでした。事前に、子どもたちに何を学ばせたいのか、打ち合わせを重ねました。また、学習後も、書き溜めてきたワークシートを製本し、製本工場の方に見ていただきました。

 「社会科見学のまとめは新聞作り」はよくあるパターンです。でも、新聞にまとめるには、表現力が必要です。どの子にも、表現しながら思考を深めていく力を、段階を追って丁寧に育てていくことが大切です。そこで今回はワークシートを用い、切実性をもって見学してきたことをフルに活用し、表現させることで思考を深め、学びに主体性が生まれるようにしました。このような学習が実現できるのは社会科という教科の独自性であり、アクティブラーニングのひとつと言えるのではないかと思います。

元東京都公立小学校教諭 鈴木有紀
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